モンゴル軍を見れば明白ですが、歴史上、遊牧民族は戦争で無敵でした。
しかし、その理由まではあまり掘り下げて分析されていません。
通常、歩兵は文字通り徒歩で行軍します。しかし遊牧民は生活に乗馬が必須のため、全員が馬で行軍できます。この差は決定的です。
まず、人の足と馬とでは「スピード」が段違いです。攻めるにしても逃げるにしても、圧倒的に迅速に軍を展開できます。
将棋に譬えると、遊牧民だけ歩が飛車角の動きを許されているようなものです。他の装備に差が無くても、それだけで実戦では決定的な差です。
そしてそれ以上に重要なのは「疲労」の差です。
歩兵は重装備で何日も歩き通し、ようやく戦場に到着します。戦う前から疲労困憊しているのが普通です。
それに対し遊牧民は、馬にまたがっているだけですから、体力を十分に温存したまま戦場に到着することができます。これで勝負になるはずがありません。
現場の負担を最小限にとどめることができたからこそ、遊牧民は世界を制覇できたのです。
古今を問わず、指導者が魂に刻み込むべき鉄則です。
また、この道理が分かっていれば、元寇が失敗に終わった理由も自然に理解できます。
船で軍を運ぶ以上、人数分の馬を連れていくことはできません。船酔いでふらふらになってようやく戦場につき、慣れない徒歩戦闘ですから、遊牧民の実力を発揮できるはずがありません。
一方、日本はホームですから、地形も知り尽くしており、満を持して待ち構えています。これではやる前から結果は見えています。
仮に人数分の馬を日本に連れてこられたとしても、広大な大陸とは違い、狭く複雑な日本の地形では陣形も展開できません。せっかくのスピードも、宝の持ち腐れです。
遊牧民族の強さは、広大な大陸でこそ生きるものなのです。
仮に鎌倉武士が大陸に攻め込んでいたら、結果は完全に入れ替わっていたでしょう。
わずかな条件の違いで、優劣はがらりと入れ替わります。慢心は禁物です。指導者はこうした道理にも通じていなければならないでしょう。